消費者志向経営を考える

 現在、消費者志向経営が注目されているが、本質的な取組みになっているだろうか。

 CCFSとして、「消費者志向経営」を考えてみたい。

第6回 ネットサービスの利用規約

第6回【企業への提言】ネットサービスの利用規約の適正化に向けて(2019.11.23)

 

■利用規約をめぐる消費者の実態と課題

ネットサービスの「利用規約」について、多くの消費者はよくわからないまま「同意」ボタンを押す、あるいは申込時に利用規約の存在が分からないこともある。そこには、どんな問題があるのだろうか。

①専門用語があり、内容が理解できない。

②長くて最後まで読むのは面倒くさい。

③サービスの利用のためには「同意」せざるをえない。

④利用規約の提示がサービスの利用直前で遅い。

など。

「利用規約」とは事業者と大量の消費者との間で一律に適用される取決めが書かれたルールであり、事業者によって作られることから、その内容や提供の方法が事業者にとって都合がよく、消費者の不利になりがちであるとの特徴がある。

しかし、「利用規約」には事業者と消費者との間の重要な内容が定められており、そこには、解約条件、損害賠償責任、個人情報の第三者提供などの内容などがある。もし利用規約に解約が一定期間とされていた場合、消費者はその期間に縛られることになる、あるいは解約料の定めがある場合、知らなかったといっても払わざるを得なくなることもある。損害賠償の請求範囲が限定されていれば、消費者が事業者に本来請求できる損害賠償額が少なくなることもある。個人情報を第三者に提供するつもりがないのに規約に第三者提供するとされていれば、第三者に個人情報を提供するつもりがなかったという文句はいえないこともある。

もちろん、消費者が利用規約を読んで「同意」しなければ不利益は生じないのであり、利用規約を読まなかった、あるいは「同意」をしなかった消費者に問題があると言われることもある。しかし、そもそも消費者が理解できる内容になっていない、利用規約を最初にオープンにしてない、同意せざるを得ないサービスもあるなど、利用規約自体の問題が大きいのではないだろうか。

また消費者に不利な利用規約が明らかになることによる炎上事件もあり、いったん消費者に不利な利用規約の存在が知られると、その事業者の評判はあっという間に広まり、ときにはサービスの提供中止、サイト運営の中止などに追い込まれることもある。消費者のみならず事業者にとっても適切な利用規約や適切な利用規約の提供にしていくことが重要といえるだろう。

そこで本稿ではネットサービス事業者が利用規約を適正な内容とする、あるいは適切な提供をしていくための提言をする。

 

【提言】利用規約を適切なものに、そして適切な提供にするために

①消費者視点の導入として、消費者あるいは消費者団体の意見を聞く

 何が消費者にとって不利な内容なのか、利用規約の作成や変更時に消費者視点を入れていく必要がある。そこで消費者視点を入れた問題解決のために、消費者や消費者団体の意見を聞くことを薦めたい。適格消費者団体*が事業者に申し入れた事例なども参考になる。これらは事業者にとってはすぐにでも対応可能なことだ。

 なお、自社にお客様窓口があれば、そこに寄せられた利用規約に関わる相談苦情を参考にすることが重要である。しかし、消費者が利用規約の問題を必ずしも相談苦情として申し出てくるとは限らないことから、やはり自社の仕組みのなかで消費者や消費者団体の意見を聞く機会を設ける必要がある。

  

*適格消費者団体とは、不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人である。令和元年6月現在、全国に21団体ある。なお、これまで適格消費者団体による差止請求訴訟は、68事業者に対して提起されている(令和元年10月末現在)

 

②業界団体などで利用規約のモデル約款やガイドラインをつくる

 利用規約は過去さまざまな業種で標準約款(モデル約款)が策定されている。たとえば、標準旅行業約款、標準宅配便運送約款、標準営業約款などが存在する。これらは過去に利用規約の問題に対して、モデル約款を作ることで解決してきた例である。ネットサービスもこれらを参考にネットサービス事業者が集まって、あるいは事業者団体でモデル約款を作成することを薦めたい。ほかにも、利用規約に関するガイドラインを策定する方法もある。時間貸駐車場における表示・運用のガイドラインが参考になる。もちろんこれらの策定は消費者視点を導入する工夫が必要である。

③利用規約に関わる法律を理解し、適正な利用規約にする

事業者はリスクマネジメントの視点からも、利用規約に関する法規制の現状を知っておく必要がある。利用規約は事業者に都合のいい内容になりがちであり、それを放置することで問題が大きくなるばかりではなく、法的に問題がある場合には訴訟リスクになる可能性がある。

関連する主な法律として、消費者契約法や改正民法を紹介する。

●消費者契約法への対応

8条から第10条には、損害賠償責任を免除する条項、消費者の解除権の放棄をさせる条項、消費者の利益を一方的に害する条項等無効な条項が定められている。

なお、不当な契約の場合、消費者を代表して適格消費者団体が差止請求、あるいは特定適格消費者団体が財産的被害の回復をすることができる消費者団体訴訟制度もある。

●改正民法(202041日施行)への対応

改正民法には約款に関する規定が整備され、ネット取引の場合も適用される。そこには、消費者に一方的に不利な契約内容は無効となることも明記し、消費者保護に配慮している。

事業者は利用規約が適正なものになっているかどうかをいっそうの確認が必要になってきている。

 

④利用規約をサービスの内容のそばにオープンに

消費者が利用規約を事前に確認でき、サービスを利用するか否かを十分検討できるようにすることが望ましい。6 

以上

 

 第5回「お客様第一」を考える                           2017年5月31日

 消費者志向経営あるいは顧客満足経営の方針でまっさきに挙げられるのは「お客さま第一」だろう。特に日本企業でこの方針を掲げていないところはないといっていいくらい、一般的な方針でもある。また最近では「〇〇ファースト」がはやりである。 

たしかに消費者の利益を考えたとき、「お客さま第一」であってほしい。「お客さま第一」の方針を掲げながらも現実には消費者の利益を考慮していない企業も少なくないことからいっそう「お客さま第一」を標榜してほしいともいえる。 

しかし、これでいいのだろうかとも思う。最近、消費者にとって便利なサービスが従業員の過酷な労働環境を招くなどが問題になっている。企業によっては「従業員ファースト」に変更したところもあると聞く。それでいいのだろうか。 

そもそも「〇〇ファースト」という考え方自体に問題があるのではないか。だれかの利益を優先することがほかのだれかの利益を犠牲にする、そこにさまざまな問題が生まれていることに人々は気づき始めている。たとえば、宅配便の再配達の増加によるドライバーや環境への負荷、24時間営業における労働と環境の負荷、安い衣料品の陰にあるとされる途上国の劣悪な労働条件、便利な商品の材料に使われる貴重な陸・海などの資源の枯渇、あるいはコミュニティの破壊、食品ロスによる環境負荷など数え上げればきりがない。 

 

2015年、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)(参考)にも「持続可能な生産・消費」が挙げられ、消費者教育の分野では公正で持続可能な社会である消費者市民社会を目指した消費者教育に力が注がれている。さらには消費者庁でも倫理的消費の検討会が開かれるなど、倫理的消費(エシカル消費)が注目されるなど従来型の消費に警鐘をならす動きが活発になっている。

 

これらの動きは、消費者に安い、便利という消費者利益だけを追求するのではなく、他者、途上国、環境などさまざまな利益を考えるように、あるいは消費者利益は環境や社会と調和されるべきだと迫っているのだ。消費者は意識や行動の変革を求められている。しかし、これは消費者だけの問題ではない。同時に企業の問題でもある。企業にも消費者の利益のみを考えた「お客さま第一」ではなく、持続可能な社会を視野に入れることが求められているともいえる。企業と消費者はともに持続可能な社会を目指していくことが必要であり、そこから、従来の「お客さま第一」の在り方を見直す必要があると考える。「従業員第一」にすれば問題解決できるわけでもないのはいうまでもない。

 

これからの社会や環境が未来にも引き継げるような社会、これは持続可能な社会といわれるが、消費者との関係でいうならば、消費者が不利益を受けない公正な市場であり、商品等の安全性が確保されていることであることは依然として変わりがないはずだが、同時に消費者が企業とともに環境や社会の課題を解決する選択をしていくにはどのような方針のもとに消費者との関係を構築していくべきなのか、新たな方針の提示が求められている。「お客さま第一」を掲げるならば、他の利益をどう調和させていくのか、もし「お客さま第一」を掲げないなら、それを消費者の利益をどう考え、消費者にどう理解してもらうのか。そこでのポイントはどのような社会にしたいのか、そこでの企業の責任はどうあるべきか、また望む社会を消費者とともにどう築き上げていくのか、ではないだろうか。

 

参考:SDGs(持続可能な開発目標) 

2015年の925-27日、ニューヨーク国連本部において、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもと、その成果文書として、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。 

アジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、宣言および目標をかかげ、この目標が、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継であり、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」である。

 

17の目標は次のとおりである。 

あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる 

飢餓を終わらせ、栄養を改善し、持続可能な農業を推進する 

あらゆる年齢の全ての人の健康な生活を確保し、福祉を推進する 

全ての人への衡平な質の高い教育と生涯学習の機会を提供する。 

世界中で女性と少女を力づけ(empower)、ジェンダー平等を実現する 

全ての人に持続可能な水の使用と衛生を保障する 

全ての人の、安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーへのアクセスを保障する。 

包摂的で持続可能な経済成長を促進し、すべての人への完全で生産的な雇用とディーセント・ワーク

 (適切な雇用)を 提供する。 

レジリエントなインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進、イノベーションの拡大を図る。 

10 国内及び国家間の不平等を減少させる。 

11 都市と人間居住を包摂的で安全かつ持続可能なものにする。 

12 生産と消費のパターンを持続可能なものにすることを促進する。 

13 気候変動とその影響を軽減するための緊急対策を講じる。 

14 海、大洋と海洋資源を保全し、持続可能な利用を促進する。 

15 陸域生態系を保護し、持続可能な利用を促進し、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地の劣

 化、生物多様性の喪失を止める。 

16 平和的で包摂的な社会とすべての人の司法へのアクセスを達成し、あらゆるレベルで効率的で説明責任ある能力の高い行政機構を実現する。 

17 実施手段と持続可能な開発への地球規模のパートナーシップを強化する。

 

(出所:国際連合広報センター

     http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

 

 第5回「お客様第一」を考える                           2017年5月31日

 消費者志向経営あるいは顧客満足経営の方針でまっさきに挙げられるのは「お客さま第一」だろう。特に日本企業でこの方針を掲げていないところはないといっていいくらい、一般的な方針でもある。また最近では「〇〇ファースト」がはやりである。 

たしかに消費者の利益を考えたとき、「お客さま第一」であってほしい。「お客さま第一」の方針を掲げながらも現実には消費者の利益を考慮していない企業も少なくないことからいっそう「お客さま第一」を標榜してほしいともいえる。 

しかし、これでいいのだろうかとも思う。最近、消費者にとって便利なサービスが従業員の過酷な労働環境を招くなどが問題になっている。企業によっては「従業員ファースト」に変更したところもあると聞く。それでいいのだろうか。 

そもそも「〇〇ファースト」という考え方自体に問題があるのではないか。だれかの利益を優先することがほかのだれかの利益を犠牲にする、そこにさまざまな問題が生まれていることに人々は気づき始めている。たとえば、宅配便の再配達の増加によるドライバーや環境への負荷、24時間営業における労働と環境の負荷、安い衣料品の陰にあるとされる途上国の劣悪な労働条件、便利な商品の材料に使われる貴重な陸・海などの資源の枯渇、あるいはコミュニティの破壊、食品ロスによる環境負荷など数え上げればきりがない。 

 

2015年、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)(参考)にも「持続可能な生産・消費」が挙げられ、消費者教育の分野では公正で持続可能な社会である消費者市民社会を目指した消費者教育に力が注がれている。さらには消費者庁でも倫理的消費の検討会が開かれるなど、倫理的消費(エシカル消費)が注目されるなど従来型の消費に警鐘をならす動きが活発になっている。

 

これらの動きは、消費者に安い、便利という消費者利益だけを追求するのではなく、他者、途上国、環境などさまざまな利益を考えるように、あるいは消費者利益は環境や社会と調和されるべきだと迫っているのだ。消費者は意識や行動の変革を求められている。しかし、これは消費者だけの問題ではない。同時に企業の問題でもある。企業にも消費者の利益のみを考えた「お客さま第一」ではなく、持続可能な社会を視野に入れることが求められているともいえる。企業と消費者はともに持続可能な社会を目指していくことが必要であり、そこから、従来の「お客さま第一」の在り方を見直す必要があると考える。「従業員第一」にすれば問題解決できるわけでもないのはいうまでもない。

 

これからの社会や環境が未来にも引き継げるような社会、これは持続可能な社会といわれるが、消費者との関係でいうならば、消費者が不利益を受けない公正な市場であり、商品等の安全性が確保されていることであることは依然として変わりがないはずだが、同時に消費者が企業とともに環境や社会の課題を解決する選択をしていくにはどのような方針のもとに消費者との関係を構築していくべきなのか、新たな方針の提示が求められている。「お客さま第一」を掲げるならば、他の利益をどう調和させていくのか、もし「お客さま第一」を掲げないなら、それを消費者の利益をどう考え、消費者にどう理解してもらうのか。そこでのポイントはどのような社会にしたいのか、そこでの企業の責任はどうあるべきか、また望む社会を消費者とともにどう築き上げていくのか、ではないだろうか。

 

参考:SDGs(持続可能な開発目標) 

2015年の925-27日、ニューヨーク国連本部において、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもと、その成果文書として、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。 

アジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、宣言および目標をかかげ、この目標が、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継であり、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」である。

 

17の目標は次のとおりである。 

あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる 

飢餓を終わらせ、栄養を改善し、持続可能な農業を推進する 

あらゆる年齢の全ての人の健康な生活を確保し、福祉を推進する 

全ての人への衡平な質の高い教育と生涯学習の機会を提供する。 

世界中で女性と少女を力づけ(empower)、ジェンダー平等を実現する 

全ての人に持続可能な水の使用と衛生を保障する 

全ての人の、安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーへのアクセスを保障する。 

包摂的で持続可能な経済成長を促進し、すべての人への完全で生産的な雇用とディーセント・ワーク

 (適切な雇用)を 提供する。 

レジリエントなインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進、イノベーションの拡大を図る。 

10 国内及び国家間の不平等を減少させる。 

11 都市と人間居住を包摂的で安全かつ持続可能なものにする。 

12 生産と消費のパターンを持続可能なものにすることを促進する。 

13 気候変動とその影響を軽減するための緊急対策を講じる。 

14 海、大洋と海洋資源を保全し、持続可能な利用を促進する。 

15 陸域生態系を保護し、持続可能な利用を促進し、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地の劣

 化、生物多様性の喪失を止める。 

16 平和的で包摂的な社会とすべての人の司法へのアクセスを達成し、あらゆるレベルで効率的で説明責任ある能力の高い行政機構を実現する。 

17 実施手段と持続可能な開発への地球規模のパートナーシップを強化する。

 

(出所:国際連合広報センター

     http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

 

第4回「消費者と顧客」の違いは何か(3)-消費者の権利ー 2017年5月31日

消費者志向経営というとき、多くの企業がそして消費者が思い浮かべるのは「顧客満足(CS)」ではないだろうか。巷には「お客様満足度No.1」など顧客満足を目指す、あるいは顧客満足を競う企業の姿がある。顧客満足とは、お客様のニーズに応え、自社の商品等のお客様の不満や苦情に的確に対応して、お客様の満足を獲得する取組みであり、最終的に顧客満足の向上によって企業の利益につなげようというものである。

CCFSが提案する消費者志向経営はそれを否定するものではないが、それだけにとどまらない経営を企業に求めるものであり、現在の企業にはそれが必要であるとするものである。日本企業は顧客満足に非常に努力し、消費者に多くの利便性と豊かさに貢献してきたと考えている。しかし、現在の消費者は表示の偽装、製品の安全性、悪質商法などの多様な消費者問題にさらされる一方で、持続可能な社会に参画する消費者としての行動も期待されるなど、複雑な状況のなかにいる。さらには消費者も一様ではなくその行き過ぎた行動が企業や社会に問題を発生させることも起きている。このような消費者の状況を見据えたとき、企業は単なる顧客満足ではない経営を考えるときに来ているのではないか。

 現在、企業と消費者をめぐるさまざまな問題は「顧客満足」の発想では解決ができない。たとえば、「表示の偽装」の問題について、消費者がどのような表示を望んでいるかという考え方で問題は解決できるだろうか。「表示」が消費者にとってどういう意味をもつか、現代における企業と消費者の関係を考えたうえでの企業の取組みを考える必要がある。また「製品の安全」の問題について、消費者がどのような安全を望んでいるかで解決できるだろうか。消費者の望む安全を考えるなら、リスクなど存在しない絶対安全だろう。しかしこの社会には絶対安全など存在しないし、当初安全とされていたものが後日問題になり、商品等のリコールがなされることもある。あるいは消費者の使い方によって問題を発生させることもある。安全問題は企業の不断の努力とともに消費者の意識や行動の問題とも関わり、社会全体で解決を図るような事態もありうる。このような状況で企業は消費者にどう向き合えばいいのかを考える必要がある。

                                                                                   以上

 

第4回「消費者と顧客」の違いは何か(3)-消費者の権利ー 2017年5月31日

消費者志向経営というとき、多くの企業がそして消費者が思い浮かべるのは「顧客満足(CS)」ではないだろうか。巷には「お客様満足度No.1」など顧客満足を目指す、あるいは顧客満足を競う企業の姿がある。顧客満足とは、お客様のニーズに応え、自社の商品等のお客様の不満や苦情に的確に対応して、お客様の満足を獲得する取組みであり、最終的に顧客満足の向上によって企業の利益につなげようというものである。

CCFSが提案する消費者志向経営はそれを否定するものではないが、それだけにとどまらない経営を企業に求めるものであり、現在の企業にはそれが必要であるとするものである。日本企業は顧客満足に非常に努力し、消費者に多くの利便性と豊かさに貢献してきたと考えている。しかし、現在の消費者は表示の偽装、製品の安全性、悪質商法などの多様な消費者問題にさらされる一方で、持続可能な社会に参画する消費者としての行動も期待されるなど、複雑な状況のなかにいる。さらには消費者も一様ではなくその行き過ぎた行動が企業や社会に問題を発生させることも起きている。このような消費者の状況を見据えたとき、企業は単なる顧客満足ではない経営を考えるときに来ているのではないか。

 現在、企業と消費者をめぐるさまざまな問題は「顧客満足」の発想では解決ができない。たとえば、「表示の偽装」の問題について、消費者がどのような表示を望んでいるかという考え方で問題は解決できるだろうか。「表示」が消費者にとってどういう意味をもつか、現代における企業と消費者の関係を考えたうえでの企業の取組みを考える必要がある。また「製品の安全」の問題について、消費者がどのような安全を望んでいるかで解決できるだろうか。消費者の望む安全を考えるなら、リスクなど存在しない絶対安全だろう。しかしこの社会には絶対安全など存在しないし、当初安全とされていたものが後日問題になり、商品等のリコールがなされることもある。あるいは消費者の使い方によって問題を発生させることもある。安全問題は企業の不断の努力とともに消費者の意識や行動の問題とも関わり、社会全体で解決を図るような事態もありうる。このような状況で企業は消費者にどう向き合えばいいのかを考える必要がある。

                                                                                   以上

 

 第3回「消費者と顧客」の違いは何か(2)-消費者とのコミュニケーション                    2017年5月31日

前回は、企業は消費者・顧客に対する方針において、「顧客」のみならず「消費者」も視野に入れている例として、花王の「ユニバーサルデザイン」の例を見てきた。今回は消費者とのコミュニケーションの中で、企業が「顧客」のみならず「消費者」を視野に入れている例を見てみよう。これも前回同様に事例が多いわけではない。 

 今回も消費者庁で実施している「消費者志向自主宣言」をした企業の中からその違いを探ってみることにする。

 

【アサヒビールー消費者ダイアログ】         出所:http://www.asahigroup-holdings.com/csr/quality/activity/support.html

 

アサヒビールでは「消費者と直接対話し、相互理解を深め、消費者目線の企業風土を醸成することを目的」に、2008年度から消費者ダイアログを行っている。そこでの参加者は消費者代表、学識経験者など、対話の形式は、講演会、パネルディスカッション、2011年度のテーマは「お客様が求める『食の安全・安心』をお届けするには」である。 

 

【住友生命保険-CS向上アドバイザー会議】 

 出所:http://www.sumitomolife.co.jp/about/csr/satisfaction/manage.html#sec02

 

住友生命では「お客さま満足の一層の向上を図るため、消費者問題に詳しい有識者(消費者問題専門家、弁護士等)を社外委員とする「CS向上アドバイザー会議」を平成203月に設置している。目的は「お客さま満足の向上に関する諸施策等に関しての意見をいただき、お客さまの視点に立った商品・サービスの開発、情報提供の充実に活かすもの」であり、平成29113日には第18回目の同会議を開催している。平均年2回の開催である。 

 なお、同様の内容の会議は他の保険会社にも見られる事例である。 

 

第一生命―消費者モニター制度や消費者問題研究会の運営】 

 出所:http://www.dai-ichi-life.co.jp/dsr/customerorientation/improvement.html

 

第一生命では「消費者モニター制度」を運営し、「全国主要都市の懇談会などを通じて、商品・サービスなどについてご意見をいただき、業務改善に反映させている」ほか、「専門分野の有識者が集い、企業の消費者対応のあり方やお客さま本位の経営のあり方などについて意見交換を行うことを目的」に、1985年から継続して「消費者問題研究会」を運営している。

 

一般に企業が消費者とのコミュニケーションを図る場合はお客様相談室であったり、工場見学であったり、その対象はあくまで「顧客」である。しかし、上述の事例のコミュニケーションは「顧客」でも「潜在顧客」でもない。それは「消費者」であり、その消費者を知るための消費者問題の専門家やその他有識者である。またコミュニケーションのテーマは商品・サービスから消費者対応や経営の在り方にまで及んでおり、企業としていかに消費者を理解し、現状の社会のなかでどのように消費者の視点に基づく経営を行うかという取組みを行っている。企業が対象を「顧客」としか捉えない場合、このような「消費者」とのコミュニケーションの意義はなかなか気づきにくいのではないだろうか。

 

これらの消費者とのコミュニケーションはCSR(企業の社会的責任)としての実施例とも捉えられるものもある。「顧客」とのコミュニケーションだけでは見えない「消費者」とのコミュニケーションによって、自社が行うべき社会的責任の取組みが見えてくるからである。企業はこのような「消費者」とのコミュニケーションによって現在の社会のなかで消費者が抱えている課題を知り、自社の商品・サービスを通して問題を解決していくことが期待されている。 

 

 第3回「消費者と顧客」の違いは何か(2)-消費者とのコミュニケーション                    2017年5月31日

前回は、企業は消費者・顧客に対する方針において、「顧客」のみならず「消費者」も視野に入れている例として、花王の「ユニバーサルデザイン」の例を見てきた。今回は消費者とのコミュニケーションの中で、企業が「顧客」のみならず「消費者」を視野に入れている例を見てみよう。これも前回同様に事例が多いわけではない。 

 今回も消費者庁で実施している「消費者志向自主宣言」をした企業の中からその違いを探ってみることにする。

 

【アサヒビールー消費者ダイアログ】         出所:http://www.asahigroup-holdings.com/csr/quality/activity/support.html

 

アサヒビールでは「消費者と直接対話し、相互理解を深め、消費者目線の企業風土を醸成することを目的」に、2008年度から消費者ダイアログを行っている。そこでの参加者は消費者代表、学識経験者など、対話の形式は、講演会、パネルディスカッション、2011年度のテーマは「お客様が求める『食の安全・安心』をお届けするには」である。 

 

【住友生命保険-CS向上アドバイザー会議】 

 出所:http://www.sumitomolife.co.jp/about/csr/satisfaction/manage.html#sec02

 

住友生命では「お客さま満足の一層の向上を図るため、消費者問題に詳しい有識者(消費者問題専門家、弁護士等)を社外委員とする「CS向上アドバイザー会議」を平成203月に設置している。目的は「お客さま満足の向上に関する諸施策等に関しての意見をいただき、お客さまの視点に立った商品・サービスの開発、情報提供の充実に活かすもの」であり、平成29113日には第18回目の同会議を開催している。平均年2回の開催である。 

 なお、同様の内容の会議は他の保険会社にも見られる事例である。 

 

第一生命―消費者モニター制度や消費者問題研究会の運営】 

 出所:http://www.dai-ichi-life.co.jp/dsr/customerorientation/improvement.html

 

第一生命では「消費者モニター制度」を運営し、「全国主要都市の懇談会などを通じて、商品・サービスなどについてご意見をいただき、業務改善に反映させている」ほか、「専門分野の有識者が集い、企業の消費者対応のあり方やお客さま本位の経営のあり方などについて意見交換を行うことを目的」に、1985年から継続して「消費者問題研究会」を運営している。

 

一般に企業が消費者とのコミュニケーションを図る場合はお客様相談室であったり、工場見学であったり、その対象はあくまで「顧客」である。しかし、上述の事例のコミュニケーションは「顧客」でも「潜在顧客」でもない。それは「消費者」であり、その消費者を知るための消費者問題の専門家やその他有識者である。またコミュニケーションのテーマは商品・サービスから消費者対応や経営の在り方にまで及んでおり、企業としていかに消費者を理解し、現状の社会のなかでどのように消費者の視点に基づく経営を行うかという取組みを行っている。企業が対象を「顧客」としか捉えない場合、このような「消費者」とのコミュニケーションの意義はなかなか気づきにくいのではないだろうか。

 

これらの消費者とのコミュニケーションはCSR(企業の社会的責任)としての実施例とも捉えられるものもある。「顧客」とのコミュニケーションだけでは見えない「消費者」とのコミュニケーションによって、自社が行うべき社会的責任の取組みが見えてくるからである。企業はこのような「消費者」とのコミュニケーションによって現在の社会のなかで消費者が抱えている課題を知り、自社の商品・サービスを通して問題を解決していくことが期待されている。 

 

 第3回「消費者と顧客」の違いは何か(2)-消費者とのコミュニケーション                    2017年5月31日

前回は、企業は消費者・顧客に対する方針において、「顧客」のみならず「消費者」も視野に入れている例として、花王の「ユニバーサルデザイン」の例を見てきた。今回は消費者とのコミュニケーションの中で、企業が「顧客」のみならず「消費者」を視野に入れている例を見てみよう。これも前回同様に事例が多いわけではない。 

 今回も消費者庁で実施している「消費者志向自主宣言」をした企業の中からその違いを探ってみることにする。

 

【アサヒビールー消費者ダイアログ】         出所:http://www.asahigroup-holdings.com/csr/quality/activity/support.html

 

アサヒビールでは「消費者と直接対話し、相互理解を深め、消費者目線の企業風土を醸成することを目的」に、2008年度から消費者ダイアログを行っている。そこでの参加者は消費者代表、学識経験者など、対話の形式は、講演会、パネルディスカッション、2011年度のテーマは「お客様が求める『食の安全・安心』をお届けするには」である。 

 

【住友生命保険-CS向上アドバイザー会議】 

 出所:http://www.sumitomolife.co.jp/about/csr/satisfaction/manage.html#sec02

 

住友生命では「お客さま満足の一層の向上を図るため、消費者問題に詳しい有識者(消費者問題専門家、弁護士等)を社外委員とする「CS向上アドバイザー会議」を平成203月に設置している。目的は「お客さま満足の向上に関する諸施策等に関しての意見をいただき、お客さまの視点に立った商品・サービスの開発、情報提供の充実に活かすもの」であり、平成29113日には第18回目の同会議を開催している。平均年2回の開催である。 

 なお、同様の内容の会議は他の保険会社にも見られる事例である。 

 

第一生命―消費者モニター制度や消費者問題研究会の運営】 

 出所:http://www.dai-ichi-life.co.jp/dsr/customerorientation/improvement.html

 

第一生命では「消費者モニター制度」を運営し、「全国主要都市の懇談会などを通じて、商品・サービスなどについてご意見をいただき、業務改善に反映させている」ほか、「専門分野の有識者が集い、企業の消費者対応のあり方やお客さま本位の経営のあり方などについて意見交換を行うことを目的」に、1985年から継続して「消費者問題研究会」を運営している。

 

一般に企業が消費者とのコミュニケーションを図る場合はお客様相談室であったり、工場見学であったり、その対象はあくまで「顧客」である。しかし、上述の事例のコミュニケーションは「顧客」でも「潜在顧客」でもない。それは「消費者」であり、その消費者を知るための消費者問題の専門家やその他有識者である。またコミュニケーションのテーマは商品・サービスから消費者対応や経営の在り方にまで及んでおり、企業としていかに消費者を理解し、現状の社会のなかでどのように消費者の視点に基づく経営を行うかという取組みを行っている。企業が対象を「顧客」としか捉えない場合、このような「消費者」とのコミュニケーションの意義はなかなか気づきにくいのではないだろうか。

 

これらの消費者とのコミュニケーションはCSR(企業の社会的責任)としての実施例とも捉えられるものもある。「顧客」とのコミュニケーションだけでは見えない「消費者」とのコミュニケーションによって、自社が行うべき社会的責任の取組みが見えてくるからである。企業はこのような「消費者」とのコミュニケーションによって現在の社会のなかで消費者が抱えている課題を知り、自社の商品・サービスを通して問題を解決していくことが期待されている。 

 

 第2回「消費者と顧客」の違いは何か(1)-理念・方針と消費者ー               2017年5月31日

 企業は消費者・顧客に対する方針のなかで、「お客さま」を対象にして方針等を示すところがほとんどであり、「消費者」を視野に入れる方針を示すところは少ない。しかし、その対象を「顧客」と同時に「消費者」と見ることで、その取り組みには大きな違いが生まれる。 

消費者庁で実施している「消費者志向自主宣言」をした企業の中からその違いを探ってみることにする。

 

【花王の場合】 

企業の理念や方針のなかに「消費者」の言葉を盛り込む数少ない企業の一つに花王がある。花王は根幹の理念を「花王ウェイ」とし、そこに「消費者と顧客の立場にたったよきモノづくりを支える」を示し、「行動原則」には「消費者起点」として、「消費者第一」「消費者理解」「消費者との交流」を挙げる。

 

<ユニバーサルデザインへの取組み> 

 花王が商品・サービスの対象を「顧客」として捉えるだけではなく「消費者」として捉えていることがわかるものとして、ユニバールデザインへの取組みを見てみよう。

 

花王は「花王ユニバーサルデザイン指針」を策定し、その3つの柱に「「人にやさしいモノづくり」、「『うれしい』をかたちにするモノづくり」、「人や社会とつながるモノづくり」を掲げている。

 

ユニバーサルデザインはノースカロライナ州立大学デザイン学部ユニバーサルデザインセンターの創設者である故ロン・メイス氏によって提唱されたもので、同センターではユニバーサルデザインの定義を「すべての人にとって、できる限り利用可能であるように、製品、建物、環境をデザインすることであり、デザイン変更や特別仕様のデザインが必要なものであってはならない。」としている。 

(出所:UDNJ (Universal Design Network Japan) 

 

花王の掲げる3つの柱をそれぞれ具体的にみてみよう。
◆人にやさしいモノづくり
 

「多様なお客さまに、特別に意識しなくても、ふつうにわかりやすく、ふつうに使いやすく、安心して使っていただけることをめざします。」とし、さらに具体化した「接しやすさ」、「安全」、「使いやすさ」を挙げている。 

「接しやすさ」には「見やすいカテゴリー表記」、「安全」には「カビとり剤に安全ロック機構」、「使いやすさ」には「使いやすいつめかえ容器」の取組み例を挙げている。 

「うれしい」をかたちにするモノづくり 

「毎日お使いいただく製品だからこそ、使うことの先にあるうれしさ感動をつくり出していくことに努めています。」とし、その取組み例に「お客様の声」を挙げている。 

◆人や社会とつながるモノづくり 

「豊かな生活体験を提供していくことで、人と製品の関係性の中だけでなく、人と人、人と社会の関係性の中にも価値を広げています。」とし、その取組み例に「多様性へ理解」として、字幕CM放送による情報格差の是正の取組みを紹介している。

 

企業は商品・サービスの「顧客」のニーズを把握し、また不満や苦情を解決してより良い満足を得て利益を上げるために、「顧客」の声を聞いている。もちろん花王でも「生活者コミュニケのーションセンター 消費者相談室」ではお客様からのお声を聞き、よきモノづくりに反映している。しかし、ユニバーサルデザインは、対象の顧客のニーズがあるかどうか、不満を持っているかどうという顧客満足に重点があるわけではない。現代の消費者が置かれた状況を理解し、その問題を解決しようとするのである。もちろん「顧客」として捉えてもそれらの理解と解決が絶対できないわけではないが、「顧客」だけの理解では、現代の消費者が置かれた状況にまで思いを馳せることはむずかしく、その問題の解決までは見えにくいのではないか。

 

現代の消費者は企業の提供する商品・サービスを購入して生活をせざるをえないが、商品・サービスを使用する現実の消費者は多様である。国も地域も、言葉も、世代も、性別も異なり、ときにはそれぞれ特有の障害や病気などを抱えている。「消費者」としての認識は社会の中で現実に消費者が抱えている共通、あるいは特有の課題を理解し、その解決として、商品・サービスを志向するのであり、そこにはよりよい社会を目指した企業と消費者の在り方をも考えているといってもよいだろう。

 

花王ではこれまでのユニバーサルデザインへの取組みとして数多くの事例を紹介している。その主な取組みの歴史から注目されるものを拾ってみよう。 

  シャンプーに片手で開けられる押し上げ式のキャップを採用 (1970年) 

それまでねじ式のキャップで、両手を使わないと開けられなかったものが、口の部分を押し上げるだけで液を出せるようにしたものである。 

  触るだけでリンスと区別できる「きざみ」をシャンプー容器に採用 (1991年) 

目の不自由な人だけでなく、健常者の方が目をつぶって髪を洗う時も、触っただけでリンスとの区別ができるきざみをボトルの側面につけたもの。国内では業界標準となり、日本主導で国際規格になったものである。(ISO 11156: 2011) 

  使いやすさを追求したお掃除用ワイパーを発売 (1994年) 

軽くて、手や腰に負担をかけず、片手ですべらせるだけで手軽にお掃除ができるもので、お年寄りやお子さま、妊産婦、障がいのある方にも使いやすく、音がしないので、深夜や早朝でも気がねなく使えるとしている。 

  全身洗浄料の容器に「触覚識別表示」を採用 (2015年) 

目の不自由な方からの要望に業界団体が応え、2014年に全身洗浄料の容器に一直線状の触覚記号(通称ライン)をつける規格がJISに追加された。20154月発売の全身洗浄料ビオレのポンプに、このラインのマークがついたとのことである。

 

第1回「消費者志向経営とは何か」                         2015年10月6日

  消費者庁では2016年4月に「消費者志向経営の取組促進に関する検討会」報告書(http://www.caa.go.jp/information/pdf/160406_houkokusho.pdf)を公表している。そこでは消費者志向経営を次のように定義している。 

 

 本報告書における「消費者志向経営」とは、基本的に事業者が行う次の活動を意味している。 

●事業者が、現在の顧客だけでなく、消費者全体の視点に立ち、消費者の権利の確保及び利益の向上を図ることを経営の中心と位置付けること。 

●その上で、健全な市場の担い手として、消費者の安全や取引の公正性の確保、消費者に必要な情報の提供、消費者の知識、経験等への配慮、苦情処理体制の整備等を通じ、消費者の信頼を獲得すること。 

●さらに、中長期的な視点に立ち、持続可能で望ましい社会の構築に向けて、自らの社会的責任を自覚して事業活動を行うこと。

 

この定義を見ると、最初に「消費者の権利」が消費者志向経営の中心として位置づけられていることがわかる。企業の対象を単なる「顧客」と捉えるだけでは、なぜ消費者志向経営に「消費者の権利」が入るのかが理解できないだろう。消費者は市場のなかで企業と比べて商品等の情報の格差や交渉力の格差からさまざまな不利益を受けるという特性を持っていることから、消費者の権利が認められるのである。 

なお、消費者問題の専門家組織であるNACS[1])では、2004年に「消費者志向マネジメントシステム」(COMS)[2])を公表し、消費者志向経営方針の1つとして「消費者の権利の尊重」を掲げている。 

しかし、企業の顧客満足あるいは消費者志向経営のなかで「消費者の権利」を前面に出すところはほとんど存在しない。企業にとっては「消費者の権利」を方針等に盛り込むには大きな壁が存在するようである。

その中でも消費者の権利を方針等に盛り込む企業もないわけではない。今回はそれを紹介しよう。 

 

TOTOグループ―TOTOグループビジネス行動ガイドライン】 

 出所:http://www.toto.co.jp/company/csr/management/compliance/pdf/business_guideline.pdf

 

TOTOグループビジネス行動ガイドラインには「商品・サービス」の項目があり、さらに「お客様(消費者の保護)」のなかに、「お客さまにとって必要な情報を明確で平易に提供すると共に、苦情には適性かつ迅速に対応し、お客様の安全とお客様満足を実現します」と明記し、印刷物、Webサイトや苦情対応でこれらを遵守することとしている。 

前半の情報提供等の記述は、消費者基本法における事業者の責務に関わる記述である。「お客様(消費者)の権利」については、同ガイドラインの参考として記述されている。 

 

【雪印メグミルク―雪印メグミルク行動基準・消費者重視経営】

  出所:http://www.meg-snow.com/corporate/conduct/

      http://www.meg-snow.com/csr/consumer/

 

  雪印メグミルクでは、「雪印行動基準」のなかの「お客様・消費者に対する姿勢」には「私たちは、消費者基本法に基づく『消費者の権利』と『事業者の責務』を認識し、自分自身が会社を代表しているという自覚を持って行動します。」 

 また同グループでは従来から「消費者重視経営の実践」を掲げ、それは「消費者基本法を根幹」として、「消費者の権利」を明記し、それに事業者は「向き合う」として「事業者の責務」が明記されている。また消費者重視経営には「4つの姿勢」と「情報開示」を掲げている。

 

4つの姿勢」には以下の内容が記載されている。 

■安全で安心していただける商品の提供 

■消費者への情報提供、情報開示 

■消費者の声を傾聴し、経営に反映 

■危機管理体制の整備により迅速、適切に対応

 

「情報開示」には以下の内容が記載されている。 

■活動報告(CSRの取組み) 

■ホームページ 

 

【大阪よどがわ市民生活協同組合―自主行動基準】

  出所:http://www.yodogawa.coop/about/kimari/jisyu.html

 

 大阪よどがわ市民生活協同組合の自主行動基準のなかに、「消費者・組合員に対する行動基準」の項目があり、そのなかに「食の安全をはじめ消費者の権利の保全の取り組みをすすめます。」が盛り込まれている。 

 なお、生活協同組合はほかでも同様に「消費者の権利」を自主行動基準に盛り込んだものが多い。生活協同組合は消費者一人ひとりがお金(出資金)を出し合い組合員となり、協同で運営・利用する組織であることから当然ともいえる。

 

このように企業によっては消費者の権利さらには事業者の責務も明記している。この記述の背景には企業が対象を「顧客」としてだけではなく、消費者の置かれた現状を理解して、消費者には権利があることを社員に明確にさせ、単なる顧客満足ではない取組みをしようとするものと評価できる。

 

参考:消費者基本法(2004)

◆消費者の権利(同法第2条の「基本理念」に記載)

    消費生活における基本的な需要が満たされる権利

    健全な生活環境が確保される権利

    消費者の安全が確保される権利

    消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保される権利

    消費者に対し必要な情報が提供される権利

    消費者教育の機会が提供される権利

    消費者の意見が消費者政策に反映される権利

   消費者の被害が適切かつ迅速に救済される権利

◆事業者の責務(同法第5条に記載)

1項 事業者は、第二条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にかんがみ、その供給する商品及び役務について、次に掲げる責務を有する。

 消費者の安全及び消費者との取引における公正を確保すること。

 消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供すること。

 消費者との取引に際して、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すること。

 消費者との間に生じた苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な体制の整備等に努め、当該苦情を適切に処理すること。

 国又は地方公共団体が実施する消費者政策に協力すること。

2項 事業者は、その供給する商品及び役務に関し環境の保全に配慮するとともに、当該商品及び役務について品質等を向上させ、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成すること等により消費者の信頼を確保するよう努めなければならない。



[1]) NACSとは、公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の略称で、消費生活アドバイザー、消費生活コンサルタント、消費生活相談員をメンバーとする。

[2] COMSは2003年から2004年にかけて、経済産業省の受託事業として作成されたもので、企業などの組織が、消費者の権利・利益を尊重し、消費者のニーズや期待に応えた消費者志向経営を実施・推進していくことによって、その社会的責任を果たすための要件を指針として定めたものである。

  なお、古谷由紀子(2010)「消費者志向の経営戦略」(芙蓉書房出版)にはその解説と事例を記述している。