第2回「消費者と顧客」の違いは何か(1)-理念・方針と消費者ー               2017年5月31日

 企業は消費者・顧客に対する方針のなかで、「お客さま」を対象にして方針等を示すところがほとんどであり、「消費者」を視野に入れる方針を示すところは少ない。しかし、その対象を「顧客」と同時に「消費者」と見ることで、その取り組みには大きな違いが生まれる。 

消費者庁で実施している「消費者志向自主宣言」をした企業の中からその違いを探ってみることにする。

 

【花王の場合】 

企業の理念や方針のなかに「消費者」の言葉を盛り込む数少ない企業の一つに花王がある。花王は根幹の理念を「花王ウェイ」とし、そこに「消費者と顧客の立場にたったよきモノづくりを支える」を示し、「行動原則」には「消費者起点」として、「消費者第一」「消費者理解」「消費者との交流」を挙げる。

 

<ユニバーサルデザインへの取組み> 

 花王が商品・サービスの対象を「顧客」として捉えるだけではなく「消費者」として捉えていることがわかるものとして、ユニバールデザインへの取組みを見てみよう。

 

花王は「花王ユニバーサルデザイン指針」を策定し、その3つの柱に「「人にやさしいモノづくり」、「『うれしい』をかたちにするモノづくり」、「人や社会とつながるモノづくり」を掲げている。

 

ユニバーサルデザインはノースカロライナ州立大学デザイン学部ユニバーサルデザインセンターの創設者である故ロン・メイス氏によって提唱されたもので、同センターではユニバーサルデザインの定義を「すべての人にとって、できる限り利用可能であるように、製品、建物、環境をデザインすることであり、デザイン変更や特別仕様のデザインが必要なものであってはならない。」としている。 

(出所:UDNJ (Universal Design Network Japan) 

 

花王の掲げる3つの柱をそれぞれ具体的にみてみよう。
◆人にやさしいモノづくり
 

「多様なお客さまに、特別に意識しなくても、ふつうにわかりやすく、ふつうに使いやすく、安心して使っていただけることをめざします。」とし、さらに具体化した「接しやすさ」、「安全」、「使いやすさ」を挙げている。 

「接しやすさ」には「見やすいカテゴリー表記」、「安全」には「カビとり剤に安全ロック機構」、「使いやすさ」には「使いやすいつめかえ容器」の取組み例を挙げている。 

「うれしい」をかたちにするモノづくり 

「毎日お使いいただく製品だからこそ、使うことの先にあるうれしさ感動をつくり出していくことに努めています。」とし、その取組み例に「お客様の声」を挙げている。 

◆人や社会とつながるモノづくり 

「豊かな生活体験を提供していくことで、人と製品の関係性の中だけでなく、人と人、人と社会の関係性の中にも価値を広げています。」とし、その取組み例に「多様性へ理解」として、字幕CM放送による情報格差の是正の取組みを紹介している。

 

企業は商品・サービスの「顧客」のニーズを把握し、また不満や苦情を解決してより良い満足を得て利益を上げるために、「顧客」の声を聞いている。もちろん花王でも「生活者コミュニケのーションセンター 消費者相談室」ではお客様からのお声を聞き、よきモノづくりに反映している。しかし、ユニバーサルデザインは、対象の顧客のニーズがあるかどうか、不満を持っているかどうという顧客満足に重点があるわけではない。現代の消費者が置かれた状況を理解し、その問題を解決しようとするのである。もちろん「顧客」として捉えてもそれらの理解と解決が絶対できないわけではないが、「顧客」だけの理解では、現代の消費者が置かれた状況にまで思いを馳せることはむずかしく、その問題の解決までは見えにくいのではないか。

 

現代の消費者は企業の提供する商品・サービスを購入して生活をせざるをえないが、商品・サービスを使用する現実の消費者は多様である。国も地域も、言葉も、世代も、性別も異なり、ときにはそれぞれ特有の障害や病気などを抱えている。「消費者」としての認識は社会の中で現実に消費者が抱えている共通、あるいは特有の課題を理解し、その解決として、商品・サービスを志向するのであり、そこにはよりよい社会を目指した企業と消費者の在り方をも考えているといってもよいだろう。

 

花王ではこれまでのユニバーサルデザインへの取組みとして数多くの事例を紹介している。その主な取組みの歴史から注目されるものを拾ってみよう。 

  シャンプーに片手で開けられる押し上げ式のキャップを採用 (1970年) 

それまでねじ式のキャップで、両手を使わないと開けられなかったものが、口の部分を押し上げるだけで液を出せるようにしたものである。 

  触るだけでリンスと区別できる「きざみ」をシャンプー容器に採用 (1991年) 

目の不自由な人だけでなく、健常者の方が目をつぶって髪を洗う時も、触っただけでリンスとの区別ができるきざみをボトルの側面につけたもの。国内では業界標準となり、日本主導で国際規格になったものである。(ISO 11156: 2011) 

  使いやすさを追求したお掃除用ワイパーを発売 (1994年) 

軽くて、手や腰に負担をかけず、片手ですべらせるだけで手軽にお掃除ができるもので、お年寄りやお子さま、妊産婦、障がいのある方にも使いやすく、音がしないので、深夜や早朝でも気がねなく使えるとしている。 

  全身洗浄料の容器に「触覚識別表示」を採用 (2015年) 

 

目の不自由な方からの要望に業界団体が応え、2014年に全身洗浄料の容器に一直線状の触覚記号(通称ライン)をつける規格がJISに追加された。20154月発売の全身洗浄料ビオレのポンプに、このラインのマークがついたとのことである。