第3回「消費者と顧客」の違いは何か(2)-消費者とのコミュニケーション             2017年5月31日

前回は、企業は消費者・顧客に対する方針において、「顧客」のみならず「消費者」も視野に入れている例として、花王の「ユニバーサルデザイン」の例を見てきた。今回は消費者とのコミュニケーションの中で、企業が「顧客」のみならず「消費者」を視野に入れている例を見てみよう。これも前回同様に事例が多いわけではない。 

 今回も消費者庁で実施している「消費者志向自主宣言」をした企業の中からその違いを探ってみることにする。

 

【アサヒビールー消費者ダイアログ】         出所:http://www.asahigroup-holdings.com/csr/quality/activity/support.html

 

アサヒビールでは「消費者と直接対話し、相互理解を深め、消費者目線の企業風土を醸成することを目的」に、2008年度から消費者ダイアログを行っている。そこでの参加者は消費者代表、学識経験者など、対話の形式は、講演会、パネルディスカッション、2011年度のテーマは「お客様が求める『食の安全・安心』をお届けするには」である。 

 

【住友生命保険-CS向上アドバイザー会議】 

 出所:http://www.sumitomolife.co.jp/about/csr/satisfaction/manage.html#sec02

 

住友生命では「お客さま満足の一層の向上を図るため、消費者問題に詳しい有識者(消費者問題専門家、弁護士等)を社外委員とする「CS向上アドバイザー会議」を平成203月に設置している。目的は「お客さま満足の向上に関する諸施策等に関しての意見をいただき、お客さまの視点に立った商品・サービスの開発、情報提供の充実に活かすもの」であり、平成29113日には第18回目の同会議を開催している。平均年2回の開催である。 

 なお、同様の内容の会議は他の保険会社にも見られる事例である。 

 

第一生命―消費者モニター制度や消費者問題研究会の運営】 

 出所:http://www.dai-ichi-life.co.jp/dsr/customerorientation/improvement.html

 

第一生命では「消費者モニター制度」を運営し、「全国主要都市の懇談会などを通じて、商品・サービスなどについてご意見をいただき、業務改善に反映させている」ほか、「専門分野の有識者が集い、企業の消費者対応のあり方やお客さま本位の経営のあり方などについて意見交換を行うことを目的」に、1985年から継続して「消費者問題研究会」を運営している。

 

一般に企業が消費者とのコミュニケーションを図る場合はお客様相談室であったり、工場見学であったり、その対象はあくまで「顧客」である。しかし、上述の事例のコミュニケーションは「顧客」でも「潜在顧客」でもない。それは「消費者」であり、その消費者を知るための消費者問題の専門家やその他有識者である。またコミュニケーションのテーマは商品・サービスから消費者対応や経営の在り方にまで及んでおり、企業としていかに消費者を理解し、現状の社会のなかでどのように消費者の視点に基づく経営を行うかという取組みを行っている。企業が対象を「顧客」としか捉えない場合、このような「消費者」とのコミュニケーションの意義はなかなか気づきにくいのではないだろうか。

 

これらの消費者とのコミュニケーションはCSR(企業の社会的責任)としての実施例とも捉えられるものもある。「顧客」とのコミュニケーションだけでは見えない「消費者」とのコミュニケーションによって、自社が行うべき社会的責任の取組みが見えてくるからである。企業はこのような「消費者」とのコミュニケーションによって現在の社会のなかで消費者が抱えている課題を知り、自社の商品・サービスを通して問題を解決していくことが期待されている。