第5回「お客様第一」を考える                           2017年5月31日

 消費者志向経営あるいは顧客満足経営の方針でまっさきに挙げられるのは「お客さま第一」だろう。特に日本企業でこの方針を掲げていないところはないといっていいくらい、一般的な方針でもある。また最近では「〇〇ファースト」がはやりである。 

たしかに消費者の利益を考えたとき、「お客さま第一」であってほしい。「お客さま第一」の方針を掲げながらも現実には消費者の利益を考慮していない企業も少なくないことからいっそう「お客さま第一」を標榜してほしいともいえる。 

しかし、これでいいのだろうかとも思う。最近、消費者にとって便利なサービスが従業員の過酷な労働環境を招くなどが問題になっている。企業によっては「従業員ファースト」に変更したところもあると聞く。それでいいのだろうか。 

そもそも「〇〇ファースト」という考え方自体に問題があるのではないか。だれかの利益を優先することがほかのだれかの利益を犠牲にする、そこにさまざまな問題が生まれていることに人々は気づき始めている。たとえば、宅配便の再配達の増加によるドライバーや環境への負荷、24時間営業における労働と環境の負荷、安い衣料品の陰にあるとされる途上国の劣悪な労働条件、便利な商品の材料に使われる貴重な陸・海などの資源の枯渇、あるいはコミュニティの破壊、食品ロスによる環境負荷など数え上げればきりがない。 

 

2015年、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)(参考)にも「持続可能な生産・消費」が挙げられ、消費者教育の分野では公正で持続可能な社会である消費者市民社会を目指した消費者教育に力が注がれている。さらには消費者庁でも倫理的消費の検討会が開かれるなど、倫理的消費(エシカル消費)が注目されるなど従来型の消費に警鐘をならす動きが活発になっている。

 

これらの動きは、消費者に安い、便利という消費者利益だけを追求するのではなく、他者、途上国、環境などさまざまな利益を考えるように、あるいは消費者利益は環境や社会と調和されるべきだと迫っているのだ。消費者は意識や行動の変革を求められている。しかし、これは消費者だけの問題ではない。同時に企業の問題でもある。企業にも消費者の利益のみを考えた「お客さま第一」ではなく、持続可能な社会を視野に入れることが求められているともいえる。企業と消費者はともに持続可能な社会を目指していくことが必要であり、そこから、従来

の「お客さま第一」の在り方を見直す必要があると考える。「従業員第一」にすれば問題解決できるわけでもないのはいうまでもない。

 

これからの社会や環境が未来にも引き継げるような社会、これは持続可能な社会といわれるが、消費者との関係でいうならば、消費者が不利益を受けない公正な市場であり、商品等の安全性が確保されていることであることは依然として変わりがないはずだが、同時に消費者が企業とともに環境や社会の課題を解決する選択をしていくにはどのような方針のもとに消費者との関係を構築していくべきなのか、新たな方針の提示が求められている。「お客さま第一」を掲げるならば、他の利益をどう調和させていくのか、もし「お客さま第一」を掲げないなら、それを消費者の利益をどう考え、消費者にどう理解してもらうのか。そこでのポイントはどのような社会にしたいのか、そこでの企業の責任はどうあるべきか、また望む社会を消費者とともにどう築き上げていくのか、ではないだろうか。

 

参考:SDGs(持続可能な開発目標) 

2015年の925-27日、ニューヨーク国連本部において、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもと、その成果文書として、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。 

アジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、宣言および目標をかかげ、この目標が、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継で

あり、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」である。

 

17の目標は次のとおりである。 

 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる 

 飢餓を終わらせ、栄養を改善し、持続可能な農業を推進する 

 あらゆる年齢の全ての人の健康な生活を確保し、福祉を推進する 

 全ての人への衡平な質の高い教育と生涯学習の機会を提供する。 

 世界中で女性と少女を力づけ(empower)、ジェンダー平等を実現する 

 全ての人に持続可能な水の使用と衛生を保障する 

 全ての人の、安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーへのアクセスを保障する。 

 包摂的で持続可能な経済成長を促進し、すべての人への完全で生産的な雇用とディーセント・ワーク

 (適切な雇用)を 提供する。 

 レジリエントなインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進、イノベーションの拡大を図る。 

10 国内及び国家間の不平等を減少させる。 

11 都市と人間居住を包摂的で安全かつ持続可能なものにする。 

12 生産と消費のパターンを持続可能なものにすることを促進する。 

13 気候変動とその影響を軽減するための緊急対策を講じる。 

14 海、大洋と海洋資源を保全し、持続可能な利用を促進する。 

15 陸域生態系を保護し、持続可能な利用を促進し、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地の劣

 化、生物多様性の喪失を止める。 

16 平和的で包摂的な社会とすべての人の司法へのアクセスを達成し、あらゆるレベルで効率的で説明責任ある能力の高い行政機構を実現する。 

17 実施手段と持続可能な開発への地球規模のパートナーシップを強化する。

 

 

(出所:国際連合広報センター

     http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/