■第6回【企業への提言】ネットサービスの利用規約の適正化に向けて(2019.11.23)

 

■利用規約をめぐる消費者の実態と課題

ネットサービスの「利用規約」について、多くの消費者はよくわからないまま「同意」ボタンを押す、あるいは申込時に利用規約の存在が分からないこともある。そこには、どんな問題があるのだろうか。

①専門用語があり、内容が理解できない。

②長くて最後まで読むのは面倒くさい。

③サービスの利用のためには「同意」せざるをえない。

④利用規約の提示がサービスの利用直前で遅い。

など。

「利用規約」とは事業者と大量の消費者との間で一律に適用される取決めが書かれたルールであり、事業者によって作られることから、その内容や提供の方法が事業者にとって都合がよく、消費者の不利になりがちであるとの特徴がある。

しかし、「利用規約」には事業者と消費者との間の重要な内容が定められており、そこには、解約条件、損害賠償責任、個人情報の第三者提供などの内容などがある。もし利用規約に解約が一定期間とされていた場合、消費者はその期間に縛られることになる、あるいは解約料の定めがある場合、知らなかったといっても払わざるを得なくなることもある。損害賠償の請求範囲が限定されていれば、消費者が事業者に本来請求できる損害賠償額が少なくなることもある。個人情報を第三者に提供するつもりがないのに規約に第三者提供するとされていれば、第三者に個人情報を提供するつもりがなかったという文句はいえないこともある。

もちろん、消費者が利用規約を読んで「同意」しなければ不利益は生じないのであり、利用規約を読まなかった、あるいは「同意」をしなかった消費者に問題があると言われることもある。しかし、そもそも消費者が理解できる内容になっていない、利用規約を最初にオープンにしてない、同意せざるを得ないサービスもあるなど、利用規約自体の問題が大きいのではないだろうか。

また消費者に不利な利用規約が明らかになることによる炎上事件もあり、いったん消費者に不利な利用規約の存在が知られると、その事業者の評判はあっという間に広まり、ときにはサービスの提供中止、サイト運営の中止などに追い込まれることもある。消費者のみならず事業者にとっても適切な利用規約や適切な利用規約の提供にしていくことが重要といえるだろう。

そこで本稿ではネットサービス事業者が利用規約を適正な内容とする、あるいは適切な提供をしていくための提言をする。

 

【提言】利用規約を適切なものに、そして適切な提供にするために

①消費者視点の導入として、消費者あるいは消費者団体の意見を聞く

 何が消費者にとって不利な内容なのか、利用規約の作成や変更時に消費者視点を入れていく必要がある。そこで消費者視点を入れた問題解決のために、消費者や消費者団体の意見を聞くことを薦めたい。適格消費者団体*が事業者に申し入れた事例なども参考になる。これらは事業者にとってはすぐにでも対応可能なことだ。

 なお、自社にお客様窓口があれば、そこに寄せられた利用規約に関わる相談苦情を参考にすることが重要である。しかし、消費者が利用規約の問題を必ずしも相談苦情として申し出てくるとは限らないことから、やはり自社の仕組みのなかで消費者や消費者団体の意見を聞く機会を設ける必要がある。

  

*適格消費者団体とは、不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人である。令和元年6月現在、全国に21団体ある。なお、これまで適格消費者団体による差止請求訴訟は、68事業者に対して提起されている(令和元年10月末現在)

 

②業界団体などで利用規約のモデル約款やガイドラインをつくる

 利用規約は過去さまざまな業種で標準約款(モデル約款)が策定されている。たとえば、標準旅行業約款、標準宅配便運送約款、標準営業約款などが存在する。これらは過去に利用規約の問題に対して、モデル約款を作ることで解決してきた例である。ネットサービスもこれらを参考にネットサービス事業者が集まって、あるいは事業者団体でモデル約款を作成することを薦めたい。ほかにも、利用規約に関するガイドラインを策定する方法もある。時間貸駐車場における表示・運用のガイドラインが参考になる。もちろんこれらの策定は消費者視点を導入する工夫が必要である。

③利用規約に関わる法律を理解し、適正な利用規約にする

事業者はリスクマネジメントの視点からも、利用規約に関する法規制の現状を知っておく必要がある。利用規約は事業者に都合のいい内容になりがちであり、それを放置することで問題が大きくなるばかりではなく、法的に問題がある場合には訴訟リスクになる可能性がある。

関連する主な法律として、消費者契約法や改正民法を紹介する。

●消費者契約法への対応

8条から第10条には、損害賠償責任を免除する条項、消費者の解除権の放棄をさせる条項、消費者の利益を一方的に害する条項等無効な条項が定められている。

なお、不当な契約の場合、消費者を代表して適格消費者団体が差止請求、あるいは特定適格消費者団体が財産的被害の回復をすることができる消費者団体訴訟制度もある。

●改正民法(202041日施行)への対応

改正民法には約款に関する規定が整備され、ネット取引の場合も適用される。そこには、消費者に一方的に不利な契約内容は無効となることも明記し、消費者保護に配慮している。

事業者は利用規約が適正なものになっているかどうかをいっそうの確認が必要になってきている。

 

④利用規約をサービスの内容のそばにオープンに

消費者が利用規約を事前に確認でき、サービスを利用するか否かを十分検討できるようにすることが望ましい。

 

 

以上